会社定款の構想による会社のデッドロック予防についての一考察
作者:李慧栄
会社法の理論と実務界で使われる最も典型的な一言は、「会社定款に別途約定がある場合を除く」よりほかなく、この一言は、会社の株主たちが定款における自主的な約定を通じて、企業を有効かつ柔軟に管理するための奥の手の一つでもある。会社の経営において株主や取締役たちが割と頭を悩ます「会社のデッドロック」は、「会社定款に別途約定がある」ことで予防できるのか?筆者は会社のデッドロックの意味およびよく見られる類型、形成要因および定款の構想により会社のデッドロックを予防する要点などを三つの面から少し検討してみる。
一、 会社のデッドロックの意味およびよく見られる類型
1. 会社のデッドロックの意味
いわゆる「会社のデッドロック」(corporate deadlock、以下「会社デッドロック」という)とは、一般的には会社が存続、稼働中に株主と取締役の間の対立が激化してこう着状態になり、それによって株主会、取締役会などの会社機関が法定の手続に従って意思決定を行えず、会社を正常に運営できなくなり、更には麻痺状態に陥ることを指す。一般的には、会社デッドロックは有限責任会社で、特に株主が割と少ない有限責任会社において発生しやすく、その場合、株主数と持株比率がほとんど同じであるため、会社法の関連規定に基づいて相応の意思決定を下せず、会社の意思決定ができなくなってしまう。
2. 会社デッドロックによく見られる類型
一般的には、会社デッドロックは株主のデッドロックと取締役のデッドロックの2種類に分けられると考えられている。(1)株主のデッドロックとは、株主間の重大な意見の相違により、会社の経営に関する有効な意思決定を連続2回の株主会にて形成できず、なおかつそのために会社に実質的な損害を与えるおそれが生じることをいう。(2)取締役のデッドロックとは、取締役間の重大な意見の相違により、会社の経営に関する有効な意思決定を連続2回の取締役会にて形成できず、なおかつそのために会社に実質的な損害を与えるおそれが生じることをいう。この中には、株主のデッドロックによって引き起こされた取締役のデッドロックという特殊な種類もあり、取締役の任期満了時に、株主間の重大な意見の相違により、後任の取締役を連続2回の株主会にて選出できず、かつそのために取締役会が実効的な経営に関する有効な意思決定を形成できる人数を満たせなくなることをいう。
二、 会社デッドロックの形成要因の分析
実務経験から見ると、会社デッドロックによく見られる形成要因は次のいくつかの種類にまとめることができる。
1. 会社の株式所有構造の設計が不合理
通常、株主が割と少ない有限責任会社では、しばしば株主の持株比率が相対的に均衡であり、更には、よく見られる50%:50%または3分の1ずつの株式所有構造というように、持株比率が同じである場合も少なくない。上記の株式所有構造の下で、もし持株比率と議決権比率が分離する設計または特殊な約定をしていなければ、会社経営の過程において株主に経営理念と経営戦略についての意見の一致がみられなかった場合、これに加えて、有限会社そのものに人の結び付きが割と強いという特徴があるが、株主の双方または多方が会社を設立した当初の信頼が失せ、関係が行き詰まった場合には、それぞれの持株では自分側の意思に沿った効果的な意思決定ができるとは保証できないため、会社経営がデッドロック状態に陥り、それが継続することになる。
2. 株主または取締役の議決のメカニズムの設計が不合理
株主会または取締役会の決議について、全会一致の同意が必須であること、または個別の株主あるいは取締役に拒否権を与えること(俗にいう「事が成就するどころか失敗するだけの条項」で、実務では取締役に拒否権を設けることについて争議がある)が会社定款で規定されている場合は、意見の一致がみられないか、または個別の株主/取締役が拒否権を行使したために決議を通過できなくなり、それで会社がデッドロックに陥ることがある。
3. 株主または取締役の消息不明または行方不明
実務においては、株主または取締役が様々な原因で行方不明か長期消息不明になったために、株主会または取締役会を正常に開催できず、会社の決議ができないことによってもたらされる会社デッドロックがありうる。
4. 株主と取締役のモラルハザード
実務では、利益の紛争またはその他の原因で、大株主または取締役が公印を勝手に持っていったままにしていたり、株主または社長が無断で会社の営業許可証を携行して蒸発してしまうなどの人的なモラルハザードによってもたらされる会社デッドロックもありうる。
表面的には、会社デッドロックは株主または取締役の間の対立または衝突により会社の意思決定メカニズムが機能しなくなることによるものに見えるが、その本質的な形成要因を追究すると、やはり会社の制度の問題によるものである。現行の会社法は会社の株主の権益と会社自体の利益を有効的に保護すると同時に、会社の運営に一定のリスクと試練ももたらしており、これらの要素はまさに会社デッドロックの発生と持続の根本的な要因である。中国の現行会社法の制度配置と会社の組織機関の閉鎖性が会社デッドロックの形成の温床である。
三、 会社定款の構想に基づく会社デッドロック予防のポイント
会社デッドロックが発生すると、会社にも株主にも極めて大きな損害をもたらし、しかもこれは株主が会社を設立した当初の本来の趣旨にも背くことである。会社デッドロックが発生した場合の司法救済ルートは法律上確立されてはいるものの、会社デッドロックによる損害はもはや補えないため、株主たちは会社設立当初から会社にて発生しうるデッドロック問題を予防しなければならない。会社定款は会社の成立における最初の株主間の会社契約の一つであり、契約性を有するものである。中国の会社法では、定款の制定にあたり、株主に割と大きな自治の余地が与えられているため、定款を制定する際には、株主は自らの状況をふまえて十分に活用し、議決権制度とコーポレート・ガバナンスの構造を科学的かつ合理的に設計することによって、会社デッドロックの発生をできるだけ回避すべきである。実務から見ると、主に定款の中で以下の条項を約定することで会社デッドロックを予防することができる。
1.会社の状況に応じて多様な議決権のメカニズムを設計
会社法の規定によれば、会社の重要な意思決定事項には株主会にて議決権を有する過半数の株主の議決を得る必要があり、会社定款の修正、会社の登録資本金の増減などのように特に重大な事項は、株主会にて議決権を有する3分の2以上の株主の議決を得てはじめて実施できるのに対して、経営における一般的な意思決定事項は取締役会の議決に委ねる必要があり、取締役会の過半数の同意を得てはじめて実施できる。株主や取締役の間に激しい対立または衝突が生じ、完全に対抗する姿勢となった場合、どちらも決議でこういう過半数や3分の2といった多数を形成できず、決議の通過はほぼ不可能となり、これによって会社デッドロックを形成してしまう。よく見られるいくつかの議決権制度は以下の通りであるが、その中心になっているのは、持株比率と議決権制度を完全に一致させるのではなく分離して設計することで、株主が持株比率の多寡に応じて議決権を持つという一元構造を突破することであり、会社の創始者や株主は会社と自身の実際状況をふまえ事情を斟酌して選択できる。
A 議決権行使を制限する仕組み
つまり、一人の株主が保有する株式が一定の比率に達した場合、同人の議決権の数を減少させることを会社定款にて規定する。支配株主の議決権を制限することで、同人が資本多数決制度を利用して少数株主の利益を侵害することを防止する。
B 特定事項/重大事項に関する特殊議決権の仕組み
つまり、株主会での議決のために提出された特定事項は、会社法で規定されている過半数または3分の2の絶対多数決の仕組みを簡単に採用するのではなく、特定の株主を含む株主の同意を得て初めて通過できるようにする。これにより、小株主が重大事項または重要事項の意思決定においてその合法的権益が保障されないことをある程度回避することができる。例えば、会社において500万元以上の資産処分が発生した際、ある株主を含む過半数以上の議決権の同意を得て初めて執行できることを会社定款にて約定する。
C 議決権回避の仕組み
いわゆる株主の議決権回避とは、議決権排除制度ともいい、株主会の議決の際に、決議事項と特別な利害関係にある株主は回避しなければならず、当該決議事項について議決権を行使してはならず、他人も同株主の議決権行使を代理してはならないことを指す。いわゆる取締役の議決権回避とは、取締役会にてある決議が通過する際に当該決議と特別な利害関係にある取締役は自ら回避しなければならず、議決権を行使してはならないことを指す。関連取引や、株主・取締役への担保提供、会社との自己取引等の場合については、いずれも定款にて具体的で明確な規定を加えなければならない。
延長線:「会社法」で規定されている株主の議決権の制限または回避の状況
A 会社が株主または会社の実際の支配者に担保を提供する場合は、株主会の決議を経なければならず、同株主または実際の支配者の支配を受けている株主は、議決に参加してはならない(「会社法」第16条の規定を参照)。
B 取締役、上級管理者が会社と自己取引を行い、又は職務上の便宜を利用して同業の競争行為に従事する場合は、会社の株主(総)会による同意を得なければならず、当該取締役は議決に参加してはならない(「会社法」第148条の規定を参照)。
C 出資義務を履行せず、又は出資金を引き上げた株主は、株主会の除名決議において議決権がない。
関連の法律条項:「会社法」第42条(株主の議決権行使)、第43条(株主会の議事の方式及び議決手続)など
2. 会社の支配権を合理的に分配
株主が二者である場合、定款において、一方が代表取締役に就任したときはもう一方が指定した取締役が多数を占めてもよく、双方の取締役の人数が等しいときは会社の名義で仲介機関から招聘して独立取締役を任命してもらうことができると約定することができる。また、取締役会を設けない会社においては、一方が執行取締役に就任したときは、もう一方が社長に就任し、且つ執行取締役が社長を招聘又は解任する権限を有しないと明記することができる。
関連の法律条項:「会社法」第42条(株主の議決権行使)、第103条(株主の議決権)、第104条(重大事項における株主総会の決議権)など
3. 最終決定権の仕組みを構築
定款において、議決がデッドロックに陥った場合に最終的な決定権を行使する権限を代表取締役に付与すること、もしくは取締役会における議決がデッドロックに陥った場合に、当該事項を株主会に提出して議決してもらうことができることなどを約定することで、取締役のデッドロックを改善できる。
関連の法律条項:「会社法」第37条(株主会の職権)、第103条(株主の議決権)、第46条(有限責任会社の取締役会の職権)、第108条(株式会社の取締役会の職権)など。
4. 会社解散の事由を明確に約定
「会社法」第43条では、「株主会の議事方式と議決手続は、本法で規定されているものを除き、会社定款により規定する。株主会会議にて会社定款の修正、登録資本金の増加又は減少の決議、及び会社の合併、分割、解散又は会社形態の変更についての決議を下すには、3分の2以上の議決権を代表する株主の議決を得なければならない。」と規定されている。株主会の決議による解散が達成できない場合、約定による解散は非常に重要であり、株主は定款において法定事由以外のその他の解散事由を規定することができ、ひとたび当該事由が発生すれば、会社は解散に帰する。このようにしておけば、会社デッドロックの状態に陥った場合、個別の株主が裁判所に会社解散訴訟を提起することでしか会社デッドロックを解消できないという難局を大いに回避できる。
関連の法律条項:「会社法」第43条(株主会の議事方式と議決手続)、第180条(会社解散の事由)、第182条(裁判所への会社解散請求)、「会社法解釈(二)」第1条(会社解散請求訴訟を提起できる状況)
5. 特殊な状況下における株主の会社から脱退するメカニズムを明確化
「会社法」第71条では、有限責任会社の株式譲渡の手続と条件が規定されている。当該条項を表面的に見ると、有限責任会社の株主が株式譲渡を通じて会社を離脱するルートが二つ提供されている。一つは会社の他の株主に自由に譲渡することで、もう一つは会社の他の株主の同意を得て、会社の株主以外の者に譲渡することである。しかし、有限責任会社には人の結び付きが割と強いという特徴があり、その設立は株主間の相互信頼に基づいたものであり、それに加え、有限責任会社の株式譲渡には株式会社の株式譲渡のような公開取引市場はないため、その譲渡の難しさは知らぬ間に大幅に増加する。そのため、実務においては、多くの場合、会社の株主以外の者は、株式譲受の形で会社に参入したがらず、有限責任会社の株主の株式譲渡は内部譲渡の形でしか実現できない。会社がデッドロックに陥った場合には、このような内部譲渡のルートも遮断され、会社デッドロックにあっては株主が他者への株式譲渡を通じて会社を離脱できなくなるという状況を直接招いてしまい、会社デッドロックをそのまま続けることになる。
もし会社定款において、特定の状況が発生し、又は会社がデッドロックに陥った場合、小株主は、支配株主に対して、約定した価格若しくは合理的な価格で株式を買い取るよう要求する、又は会社に対して、一方の株主の株式を買い戻し、減資を行うことで株主の対立を解消するよう要求する権利を有すると事前に約定しているのであれば、デッドロックという状況下で一部の株主が会社から離脱するための明確で実行可能なルートを提供できる。このような約定は株主間の意思自治の範疇で、一旦会社定款に盛り込まれると各株主および会社に対して拘束力が生じる。当該約定は、株主と会社との間で形成される、株式の譲渡または買い戻しを想定した法律関係であり、一旦条件が満たされれば、条件に合致する株主は、約定した条件に基づきその株式を買い取るよう他の株主または会社に求める権利を有し、それ以上経営に関与したくない株主は会社をスムーズに離脱することができ、会社も引き続き存続でき、会社デッドロックを解消できる。
関連の法律条項:「会社法」第71条(有限責任会社の株式譲渡の条件及び手続)、「会社法解釈(四)」第16条(自然人である株主が相続により変動した場合の先買権の行使制限)
全体的に言えば、中国の会社法における規制緩和、会社の自律尊重という文脈においては、会社定款における任意条項の明確な約定を通じて、コーポレート・ガバナンスのメカニズムに関する、会社法に予め設けられている黙示条項を補足、修正することができる。会社の実情から、会社定款を通じて株主、取締役など各側の権利、義務を合理的に確定することで、会社デッドロックの発生をある程度有効に回避でき、もしくは会社デッドロックの発生時に定款で約定されている特定のメカニズムを作動させることで、会社デッドロックの難局から抜け出すために相応の制度的サポートを提供することができる。
終わりに
法学者のハミルトン曰く、「合意がなければ、デッドロックに対するいかなる救済策も完全には満足できるものでない」。 会社デッドロックについては、「未然に防ぐ」、即ち会社定款における任意条項についての約定を積極的に活用して、議決権制度やコーポレート・ガバナンスの構造などを科学的かつ合理的に設計することこそ、会社デッドロックの最善の予防である。
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