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「九層妖塔」の著作権紛争事件の一審判決から著作物の同一性保持権の行方を見る
Mon Sep 19 17:22:00 CST 2016 発表者:华诚小編

「九層妖塔」の著作権紛争事件の一審判決から著作物の同一性保持権の行方を見る

 

汪華韻

 

 「天下覇唱」の張牧野氏が自らの保有する「鬼吹灯」シリーズ作品に対する同一性保持権を侵害されたとして「九層妖塔」を提訴しなかったら、同一性保持権は「深く隠れこんだまま人に知られることもない」権利になっていただろう。しかし、当該事件の一審判決で「九層妖塔」が「天下覇唱」の同一性保持権に対する侵害を構成しないと認定されたことで、その権能は更に実利の少ないものに見えるようになった。

 

 まず、同一性保持権は著作者人格権に属すもので、それが侵害された場合は、著作者が侵害者に対し侵害停止、及び影響を取り除くことを求めることができるが、賠償を求めることはできない。次に、同じく著作者人格権に該当する公表権、氏名表示権、改変権に比べ、同一性保持権はその保護範囲も狭く、あいまいであることが特徴である。氏名表示権は、かかる著作物が公衆の視野に入るか否かを決めるもので、「一回きり」(秘密が一度公開されてしまうと二度と隠せなくなるように)ではあるものの、生殺の権であると言えよう。氏名表示権は著作物の出所を指し示すものとして、著作者と著作物を結びつける役割を果たす。改変権は許諾を得ずに原作に対する添削を禁止することで、著作物の「純潔性」を保障するものである。しかし、同一性保持権というのは「著作物が歪曲、改ざんされないよう保護する権利」であり、改変権の保護範囲と重なっているようにもとることができ、更には何を「歪曲」、何を「改ざん」というのかは確かに把握しきれないものがある。

 

 判例の面では、「同一性保護権」のキーワードで、筆者はごくわずかの事件しか検索できなかった。判例における同一性保護権に関する解釈については改変権を当てはめることもでき、同一性保護権に内包されている核心的な内容が表されていなかった。1996年、作家F氏はドラマ化された自らの創作した小説作品のストーリと人物が改ざんされたとして同一性保護権を主張したが、裁判所は著作者が半年にも及ぶ撮影期間に異議を提起しなかったことや、小説に対する脚色が原作の歪曲、改ざんというレベルにまで達したことを立証しなかったとして、最終的に作家F氏の敗訴を判定した。このように適用条件がこんなにも厳しいため、「同一性保護権」という権利にはなかなか手が及ばない。作家F氏事件について、一部の学者は、重要人物及びあらすじを変更することは原作で表現しようとした思想、感情を変えてしまうことになり、特に原作で批判しようとする対象を変えることは著作者の名誉を害する恐れがあると指摘した。

 

 「IPIntellectual Property)」の概念が爆発的に支持を得るにつれ、「九層妖塔」事件のように、許諾を得て脚色した作品が原作と大きくかけ離れ、ネガティブな評判を得る事例が増える一方である。「九層妖塔」事件で、一審裁判所は、利益衡量の観点から、著作者は著作物が一定の範囲内で改変されたり再創作されたりするのを容認しなければならず、それは非難するほどのことではないと考えた。しかし、脚色権というのは権利付与が概括的で、原作の著作者も原作がどのように脚色されるかは未知であるため、ひたすら原作の著作者に容認するよう求めるのも不公平であるようだ。また一方で、一審裁判所は「著作物が発表された後、大衆が原作の全貌を知ることができた場合、訴えられた作品が原作著作者の名誉を害したかどうかについて重点的に考慮する必要がある」と考えたが、これについても筆者は不適当であると考える。作品の魂は脚色されても原作であることに変わりない。そうでなければ脚色家は独立して創作をすれば良いことで、権利付与のためにいろいろと面倒なことをする必要もなかろう。脚色作品は原作と緊密に連携するものであり、「一人が栄えれば皆が栄え、一人が落ちぶれれば皆も落ちぶれる」と言える。質の劣る脚色作品は原作をよく知っている大衆に嫌な感情を生じさせかねず、原作をよく知らない大衆には先入観による悪影響を及ぼしかねない。例えば、筆者は幼い頃から「黒猫警視長」というアニメが好きだったが、黒猫警視長が正義そのものであるイメージは心の中で揺らぎがない。思いがけず「黒猫警視長」というウェブアニメを目にしたのだが、ここでは黒猫警視長はぶくぶく太っていて手腕が悪辣で、警察なのかギャングなのか区別がつかないほどのキャラクターになっていた。これによって筆者が原作をウェブアニメと混同させることはないが、それでも莫大な精神的ダメージを受け、思わず血を吐くような思いをしたため、「黒猫警視長」に対する愛着があっという間に飛んでしまったのである。

 

芸術創作には作者の意向と情感が含まれており、作者の価値観が伝わり、それだけの美的意味を持っている。作品に含まれている精神的価値、作品の評判に潜んでいる経済的価値、及び作品のキャラクターで表現されている「仮想人格」についてはいずれも保護されるべきである。もう一方では、意思自治の基で権利付与された脚色行為は、作品に活力と天馬が空を行くような想像力を注入することも許容、激励しなければならない。著作権にいくつもある権能の中で同一性保持権のみが作品の趣旨に一定の保護を与えており、このような独特な設定は当該権能に潜在力を秘めており、作品における精神的価値と経済的価値の衝突を均衡にするのに最適である。

 

筆者は、将来において同一性保持権は主に原作と許諾を得た脚色作品との関係の調整に用いることができ、以下のような保護措置を設けて対応することができると考える。

1、脚色者が作品の重要人物と重要なストーリーを変更する際は、原作の著作者の同意を得る。

2、前述の状況で、原作の著作者は合理的な期限内に意見を提起しなければならず、期限が切れた場合、同意とみなす。

3、脚色した内容が公序良俗に違反した場合、原作の著作者による異議の提起は合理的な期限の制限を受けない。  

4、原作の著作者が一度変更に同意した場合、当該同意を撤回することができない。

  利益平衡という視点から、同一性保持権を侵害した者は修正、削除、関連内容を置き換えることでその責任を負うことができ、脚色した作品の目立つ位置に声明を発表し、原作との連関性を宣伝してはならない。

 

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